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転生姫ーてんせいきー番外 ー君の幸せー



 あれから3ヶ月がたった。
 孝司さんの体調も回復し、心の傷も少しは癒えて来たようだ。
 久音も少しは今の生活に慣れてきたようで俺の大好きなあの笑顔をよく見せてくれるようになった。
 …そして、最近俺たちは付き合うようになったんだ。


「…ふふふふ」
「哲平くん、哲平くーん!!!」
「えっ!?」
 放課後の教室。香織の声に俺は我に帰った。
「な、何?」
「授業終わってるよ、とっくに」
「…あ、そう」
「また、あれでしょ?」
「あれ?」
 俺の隣の席の久音がきょとんとした顔で香織を見る。
「空想よ」
「空想?」
「哲平くんってね、昔から想像力がすごいの。国語の成績は悪いのに。
星歌ちゃんと付き合うようになって嬉しいもんだからきっと変なこと空想してたのよ。きっと!」
「う!」
 俺は真実を言われてしまい、固まってしまった。でも、久音は…。
「変なこと?」
 まだ理解出来ないらしく、きょとんとしたまま。
「あのね…」
 香織が久音に顔を近づけた。
「うん」
 久音は真面目な顔をして香織を見る。
「教室ではとても言えないような空想よ!」
「…え?…まだよく分からないんだけど」
「うー、まだ分からない!?」
 俺は『やばいっ!』と思って二人の間に割って入った。
「今日はこれぐらいにしておいてくれ!…香織、今度『パティー』のモンブランおごるから。た、頼むっ!!!」
 香織の目がきらんと光る。
「『パティー』のモンブラン!?本当!!!」
「うんうん。後、『和磨屋』の豆大福もつけるから!」 
「『和磨屋』の豆大福も!………分かった。…あ!もうこんな時間!部活の時間だわ!!
 じゃあね、星歌ちゃん、哲平くん!」 
「う、うん!?」
 きょとんしたまま、久音がうなずく。
 香織は軽やかな足取りで教室を出て行った。
 俺は久音の肩に手を置き、
「帰ろっか!?」と言った。


 帰り道。
「木原さんって日野くんの事、何でも知ってるのね」
 久音が少しさびしそうに(本人は気がついてないだろうけど…)つぶやいた。
「幼馴染だからね。…ひょっとして焼いてる!?」
「や、焼いてるって…」
 顔を真っ赤にして久音は下を向いた。
「お!顔、真っ赤だぞ。かわいい!」
「ひ、日野っ!」
 恥ずかしそうに久音が叫ぶ。
「あはははは」
「わ、笑うなぁ――――!」
「…………かわいいよ、久音は。本当に」
「…ひ、日野くん」
 久音はじっと俺を見つめた。
「……う、嬉しい、日野…くん」
 俺は久音の頭をぽんぽんと叩き、
「…うん、かわいい」
「………」 
 久音が俺に寄りそってきた。俺は久音の肩に腕を回す。
「………あ、そうだ。言おうと思って事があったんだけど」
「な、何?」
「付き合い始めたわけだし、苗字で呼び合うのをやめない?
…何か男同士みたいで…変な気分なんだよな」
「…じゃあ、何って呼んだらいいの?」
「呼び捨てするなら苗字でなく、下の名前。
俺がお前を『星歌』って呼ぶ。だからお前も『哲平』って。いいな!?」
「う、うん」
「じゃあ、呼んでみて」
「い、いきなり!?」
「たいしたことじゃないじゃん」
「で、でも…私にとってはたいしたことなんだ。だって私は………」
 久音は悲しそうに下を向いた。
「…あ!」
 …そうだ。そうなんだ。久音は昔、男だった。千年前の平安時代には…。
 あの『瑠璃』という女性に性別を変えられ、
 久音は千年の時を復讐のためだけにずっと心が『男』のままで生き、
今もその後遺症で心がぎくしゃくしている。
 『男』と『女』の心の狭間でずっと揺れているんだ。
 分かっていたはずなのに…俺は。
「…ごめん」
 俺の言葉にぴくっとなった久音は顔を上げ、
「…う、ううん。私も悪いの」と悲しそうに微笑んだ。
「な、何で久音が悪いんだよ!俺の方が…」
「…決めてたのに」 
「え?」
「…私、決めてたの。あなたと付き合うことを決めた時から『女』になろうって。
体は千年『女』だったけど、心はずっと『男』だった。
あなたに会うまで私の『女』の心は封印されていた。それがあなたと会って破られたの。
一緒に生きようって言ってくれて嬉しかった。その時、やっと『女』になろうと思えた。
…逃げてたの。『女』の体から。元に戻ることは無理なのに…逃げてた。
思い出してしまいそうだったから…あの時のこと。父上が殺された時のことを…。
認めることが出来れば前に進めるのに…恐かったの」
「…久音」
「…少し事も逃げちゃいけないの、私は」
 力強く語った久音。でも、その目には涙が………。
「久音、無理するな」
 俺は久音を抱きしめた。
「…一緒に悩もう。俺がそばにいるから…ずっと」
「…うん。………哲…平」
「!」
「…ありがとう、哲平」
「星歌!」
「……………今私、幸せよ」
 久音…いや、星歌は俺を見て微笑んだ。
「……俺も。お前が幸せなら…俺も幸せだ。………あっ!」
 ふと見上げた空にあの人の姿があった。
「…瑠璃姫」
 星歌はつぶやくように言った。
「…あなたも今、幸せなのね」
 空の上のあの人はうなずく。
「…私も幸せ」
 そう言うと星歌はそっと俺の唇に自分の唇を重ねた。


終わり