『BLACK MAIL』

登場人物
時雨 恭介(しぐれ きょうすけ)…25才ぐらい。普段はガソリンスタンドに勤める。しかし、実は…。
ベル            ………見かけは17歳ぐらい。悪魔っていうか小悪魔チックな悪魔。恭介の側を離れない。
坂崎 葵(さかざき あおい)………20才。大会社の社長令嬢だった。現在は会社が倒産し、ひっそりと暮らしている。
ナレーション

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ナレーション『都市にはびこる噂・伝説の類を都市伝説と言う。
       その都市伝説の殆どはありもしないもの・または小さな話が尾ひれがついて大きくなり伝説となってしまったものが
       大半である。そして、いつか消えてしまうのが普通だった。
       ところが消えない都市伝説が1つだけあった。『BLACK MAIL』。それは戦前からあると言われている伝説。
       戦前は『黒い手紙』と呼ばれていた。どうしてもこらしめてほしい人物の名をあげた手紙を書き、封筒に入れ、
       宛名に黒い手紙様と書いてポストに投函する。そうすると、本当にこれしめるべき人間であれば願いが叶うという。
       そして、現在。今ではパソコンの普及とともに噂も進化した。
       手紙ではなくメールに、ポストではなくメールサーバーに。
       『black mail@mali』という絶対に届かないようなアドレスに出すようになっていた。
       しかし、届くのだ。その願いが特別なものなら……』

音楽、だんだん大きくなっていく。

葵 『…(息遣いが荒く)…私、もう…だめ……。おさえられない。早く…早く……BLACK MAIL!』

音楽、急に切れる。

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足音。
扉を開ける音。

ベル『…ん?…あー、恭介ー!おっかえりー!!』
恭介『ベル!いきなり引っ付くな!びっくりするじゃないか!』 
ベル『だってぇー、1人じゃつまらないんだもの。さびしかったー!』
恭介『僕はおまえの分まで飯代稼がなきゃいけないの。……悪魔がさびしい?そんなわけないだろう?』
ベル『あー、差別!悪魔だってさびしくもなるわよ!故郷をずっと離れてれば。』
恭介『…いつ帰るんだよ?』
ベル『わかんない。………あんたの一族の大罪の償いが終わるまでだからねぇ』
恭介『…そうか』
ベル『いつからくっついてるのかなんて忘れちゃった。いつからだろう?
   あんたとの年月も忘れてる。長いもんね。見かけは若いけどぉー』
恭介『………』
ベル『あ、ひょっとして傷ついてる?』
恭介『…うるさい!』
ベル『…傷つくのは勝手だけど、あんたはこの運命から逃れられない。時雨の家に生まれた時から決まっていたの。
   BLACK MAIL…お仕事だよ』
恭介『…仕事』

足音。
少しして、パソのキーボードをたたく音。

ベル『…依頼人は坂崎 葵』
恭介『坂崎 葵………お嬢様!』
ベル『そう。あんたが昔働いていた屋敷の1人娘』
恭介『…依頼内容を見せてくれ』

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音楽流れる。
だんだん小さくなり…。

葵 『…ふふふ。もうすぐ…もうすぐよ。あたしはあたし1人になれる!!』

急にパソが立ち上がる音が聞こえる。

葵 『…パソコンが急に立ち上がった!? ………キーも勝手に動いてる!…BLACK……MAIL?…BLACK MAIL!?』

足音。

ベル『おまたせー!』
葵 『…あなた誰?いきなり人の部屋に入ってくるなんて!』
ベル『あたしはベル。超かわいい悪魔♪』
葵 『悪魔?』
べル『お客さんはあたしだけじゃないよん♪』
葵 『え?』

足音。

葵 『………時雨の…お兄ちゃん!?』
ベル『お、分かった?良かったねー、恭介!』
葵 『…何であの時と同じ姿なの?』
恭介『………僕がBLACK MAILだから』
葵 『……BLACK MAIL?…都市伝説の?……………来てくれたのね!』
恭介『…こんな形で再会なんてしたくなかった』
葵 『……だから、変わらないのね。BLACK MAILは不老不死っていうもの』
ベル『あ、それ間違いー!不老だけど、不死じゃないもん』
葵 『…ふふふ、じゃあ死ぬんだ。……BLACK MAIL、あたしを殺しに来たのね!?…もう1人のあたしに頼まれて!』
恭介『…そうだよ、葵ちゃん。…今の君、闇の心を殺しに』
葵 『闇の心?…今のあたしも葵よ!』
ベル『ぶー!あんたは葵の闇の心だよ!葵だけど、葵じゃない。人間の中にあって普通は出ないもの。
   出ると人は二つの心を持つ。1つは元の自分、2つ目は闇の心。
   憎悪、破壊、憎しみといった負の心しかない悲しいもう1人の自分…。
   闇の心は人の世界で言う『犯罪』を生み出すのさ。その心がある限り、人は罪を重ねるの。
   出た時こそ、あたし達の出番!!覚悟しな!!!連続通り魔殺人の犯人!』
葵 『殺されてたまるもんですか!やっとあたしはあたしになれるのに!!』
ベル『止まれ!!』
葵 『…か、体が動かない!?…………お、お兄ちゃん』
恭介『…怖かったよな、葵ちゃん。心の奥底から自分が人を殺しているのを見るのは!?
   でも、大丈夫。僕が助けてあげるよ。闇の心を殺して心すべてを君にかえそう……』
葵 『あたしは葵よ!あたしを殺せるの!?』
恭介『(冷たく)…出来る。俺はBLACK MAIL。闇の心を狩る者』
葵 『嫌、死ぬのは嫌!!』
ベル『何、悪あがきをするの?あんた、人をたくさん殺したじゃん!』
葵 『いや、いやー!』
恭介『(冷たく)…もう狩る時間だ』
葵 『…手から刀が出て……あぁぁ!!(エコーかかって低い声で)ぐ、ブ、BLACK MAIL。
   あたしを殺しても葵の心は助からないぞ。葵の心には焼きついている。
   人を殺した瞬間も…その感触の一生残るぞ!!』
恭介『(冷たく)…うるさい』
葵 『(エコーかかって低い声で)ぐあーー!』
恭介『ベル!』
ベル『おっけー!(エコーかかって)…闇の心、封印!』

急に風の音。
だんだん小さくなり……。

恭介『…葵ちゃん、気がついたか。もう大丈夫だよ』
葵 『……私、大変なことをしてしまったのね。もう1人の自分がやったとはいえ、人をたくさん殺すなんて。
   …お兄ちゃんがいた時が一番幸せだった。あの時、お父さんの会社もうまくいっていて。
   でも、お兄ちゃんが辞めて5年ほど立って会社が倒産して…すべてが狂っていったわ。
   お母さんは心労で倒れ、お父さんは行方不明。私、一生懸命働いた。
   でも、心がおかしくなって……』
恭介『それ以上いうな!…終わった事だよ。でも、自分で死ぬなんて考えてはいけない。
   君はあの時の8歳の少女じゃない。もう二十歳、人間として立派に生きていける年齢だ。
   だからこの罪は自分の手で裁くのではなく、人として人に裁かれるべきだ。いいね?』
葵 『……うん。………お兄ちゃんはこれからどうするの?』
恭介『…僕は生まれた時から人ではないんだ。この血が人であることを許さない。
   だから、僕は終止符を打ちたい』
葵 『終止符を打つ…』
ベル『打てるかは恭介次第だけどね』
葵 『…ありがとう、お兄ちゃん、ベルさん。…お兄ちゃん、お願いがあるの』
恭介『何だい?』
葵 『少し眠りたいの。このまま眠るまでいてもらっていい?』
恭介『…いいよ。昔みたいにいてあげるよ』

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音楽。

ナレーション『人の心はガラスのようにもろい。ひびが入った時、悲劇が始まるのだ。
       闇の心。それは負の心しかない悲しいもう1人の自分。
       今日も闇の心を狩るため、BLACK MAILは闇の中を舞う……』

音楽フェードアウト。


ー終わりー

 

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