ルージュ
ガラガラガラ。
店のシャッターを下ろす。
時間は夜の8時。 私の勤める花屋『花時計』閉店の時間。
この店はいつも時間ぴったりに閉める。
店長が決めた事を絶対に守るタイプだからだ。
時間ぴったりに閉める事に命をかけているのでは?と思うほど、店長の執念はすさまじい。
どれだけ込んでいてもうまくお客を帰してしまうのだ。
私は定時に帰れるからいいのだけど…。
たまにおくさんと子供が大変だろうと思う時がある。きっと家でもすごいだろうから。
…店長、このこと以外はいい人なんだけどな。
「のぞみちゃん、今日もお疲れ様」
シャッターを閉めてぼぉーと突っ立っていた私に店長が声をかけてきた。
「お疲れ様です」
「疲れた?」
「いえ。……じゃあ、私はこれで失礼します」
「あ、あぁ、また明日」
挨拶もそこそこに私は店長に背を向けて歩き出した。
私の名前は松本のぞみ。
21歳で、花時計に勤めて3年になる。
高校を卒業と同時に1人暮らしを始めた。
花が好きだからという理由で花屋に勤めたがそれ以外の趣味はなく、
今は毎日仕事場と家を行ったり来たりだけの生活。
変わらない毎日、変わらない自分。
ただ流されるいるだけ…。
店長に『恋でもしてみれば変わるかもよ』と言われたけど、そんな気にもならない。
今の私にはときめく心もないのだ。
それに声をかけてくる人もいない。
化粧っけもなく、地味な私なんか…。