とある高校の放課後。
「…おい久音。久音!!授業、終わったぞ」
 一番奥の席の女子生徒は隣の席の男子生徒に起こされた。
「う…ん……。えっ!」
 女子生徒ははっとなって飛び起きる。恐い夢を見ていたのだろう、びっしょりと汗をかいていた。
 ……その女子生徒こそ、久音星歌。千年間女の姿で生きていたのである。
「…大丈夫?うなされてたよ!?」
 男子生徒の後ろから別の女子生徒が心配そうに声をかけてきた。
「…昔のいやな事、夢に出てきたから。…でも大丈夫。ありがとう、木原さん」
「そう」
 木原香織は安心したようで微笑んだ。
 その様子を見て男子生徒も安心したようで再び星歌に話し掛けてきた。
「しっかし珍しいよな。転校してきて半年。久音はずっと真面目に授業聞いてたのに。寝ちまうとはよ」
「…疲れてるかもしれない」
「どうして?」
 男子生徒は興味津々な顔で星歌を見る。
 星歌はくすっと笑い、
「内緒よ、日野くん」と言った。
「…そ」
 日野哲平は残念そうな顔をしたが、すぐに何かを思い出し今度は香織を見た。
「そう言えば、あれ、どうなったんだよ!?」
「あれ?」
 香織はきょとんとした顔で哲平を見返した。
「例の事件の続きだよ!」
「例の事件?」
 星歌が話に入ってきた。
「…あ、あぁ、あれ?」
 香織が思い出したようで声を上げた。
「何?」
 星歌が食い入るように香織を見る。
 香織は小さな声で『例の事件』を星歌に話してくれた。


 その事件とはこのようなものであった。
 この2週間ほどの間、人がひからびて死んでいるという怪奇な連続殺人事件が起こっている。
 死体は体内の血液、内臓等、体の中のものが全てなくなり、皮だけになっているというのだ。
 男女性別は関係なく、行方不明になってすぐに死体が見つかっているらしい。
 

「なんでそんな事知ってるの?ニュースではまだやってないけど…」
「香織の兄貴さ、刑事なんだよ。新米だけど」
 なぜか哲平が得意げに言った。
「へぇー」
「あんまりにも変な事件だからほら『報道規制』っていうのしかれてるみたい。
だから内緒にしておいてね、星歌ちゃん」
「う、うん」
「吸血鬼みたいで恐いよね。お兄ちゃんには気をつけてって言ってるの。もし犯人に出会ったりしたら…」
 香織が顔を曇らせる。
「大丈夫だよ。そんな簡単に『ホシ』にぶち当たるわけがない」
 哲平が優しく香織の頭を叩いた。
「…そうだけど」
「気持ちは分かるけど心配しすぎよ」
 星歌は優しい声で言った。
「…そうね。心配しすぎよね。………あっ!」
 はっとなった香織は教室の時計を見た。
「ど、どうしたの?」
「もうこんな時間!部活いかなきゃ!!!
…じゃあ、私行くね。星歌ちゃん、疲れてるんならゆっくり家で休んだほうがいいよ。じゃあね」
「あ、ありがとう」 
 いきなりの展開に唖然となった星歌を残して、香織は軽やかな足取りで教室を出て行った。
「相変わらず騒がしい奴」
 くすくす笑いながら、哲平は星歌の肩を叩いた。
「俺らも行くか」 
「行くってどこへ?」
 星歌がきょとんとした顔で哲平を見る。
「家、帰るんだよ。俺ら部活入ってないじゃん!!」
「…あ、そうか」
「久音ってさ、どっかぼけてんな…っていうか世間知らずっていうか。帰国子女ってみんなそうなのか?」