…時は数百年流れ、平安後期。
 都の片隅にある廃屋と化した屋敷の前に二人の男がいた。
 1人は30代後半、もう1人は10代中頃。
 都にその名をとどろかす退魔士の親子である――――――――


「…ここだ、星歌(せいか)。分かるか?」
 父の問いに息子の星歌はうなずく。
「はい、はっきりと。…ここにいるのですね。
人の生気を食らって転生を繰り返し
長き時を生きるあの転生姫(てんせいき)・瑠璃姫が―――――」
「気をつけよ。長き時を経たあの姫の力はすさまじい」
「はい!」
「………まず私1人で行く。お前はここで待っていろ」
「なぜですか!?すさまじい力なら私も一緒に!絶対に足手まといにはなりませぬ!!!」
「…すさまじい力だからだ。都一、二の退魔士と言われた私でさえ、勝てるか分からぬ。
都を騒がすあの転生姫を必ず倒さなければならぬのだ。
そのためにお前はここに…。私が戻らぬ時こそお前の出番ぞ」
 父は優しい声で星歌に告げた。
「…父様」
「よいな!?」
「………はい」
 父は優しく星歌の肩を叩くと、廃墟の中へ歩いて行った。
 

 …それからどれだけの時が立っただろうか。 
 父の事が心配で廃墟の前をうろうろしていた星歌は足を止めた。
「……あれからかなりの時が経つ。それなのに父様が戻らぬということは…。まさか!!!!!」 
 星歌の顔が曇る。首を振り、星歌は廃墟の中に駆けていった。


 星歌は必死で廃墟の中を走り、奥まで来た時―――――――――――――――――
「父様!!!」 
 星歌は父の変わり果てた姿に思わず声を上げた。
 …ひからびた状態で美しい女性に抱かれていたのだ。 
「…この男の子供か」
 女性は微笑を浮かべ、星歌を見た。
「お前が転生姫・瑠璃姫…。よくも…よくも父をぉぉぉぉ―――――――!!!!!
白き刃よ、我の心を力に変えて、敵を打て!!!」
星歌の手から出た白い刃が女性ー瑠璃姫に向けて放たれた。…だが。
 かきーん!!!
「跳ね返した!?」
「ふふ、力はあるがまだまだ子供か。
しかしさすが都一、二と言われた退魔士・久音(くおん)の子といったところかのぉ。
…少し待っておれ。この体も限界ゆえ、転生せねばならぬ。食事の時間じゃ」
「…え?」
 瑠璃はひからびた星歌の父をつかむと、その体を引きちぎり…食べ始めた。
「…あ、あぁ。父さまぁ―――――!!!」
 瑠璃のおぞましき姿にただ呆然と見つめる星歌。父だったそれは………骨とかした――――――
 瑠璃は食欲が満たされ、幸せそうな顔で星歌を見た。
「…ふふふ、次はお前ぞ。…星歌だったな!?………お前は…そうだ。生かしてやろう。腹はお前の父で一杯じゃし。」
「あ…あぁ………。」
「…お前は好みの姿をしておる。体も細うておなごの姿も似合いそうじゃ。
おなごになれ。………そして、わらわのように長く生きよ。…永久(とわ)に…なぁ……」
 瑠璃は恐怖におびえる星歌にゆっくりと近づく。
 怪しい笑みを浮かべ、瑠璃は星歌に口付けした。甘い香りが星歌の鼻を突く。
 星歌は身動き1つ取れなかった。………ただされるがまま。そして、少しして―――――――――
「…う。うぅ!!!」
 星歌は苦悶の表情を浮かべ、倒れこんだ。
「…体の変化が始まったか。ふふ、次に会う時が楽しみじゃな」
「……る…瑠璃…ひ…め、ゆ、許さな…い…」
「ふふふ。また会おうぞ」
 瑠璃の姿は闇に同化し、消えていった。
 …残された星歌は声を殺して苦しんだ。体中が熱くなる。まるで火山の中にいるようで―――――
 星歌は自分で分かった。体が変わっていくのがはっきりと。
 だんだん意識がなくなっていく。その間、にっくき瑠璃の名を何度も呼んだ。
「…ゆ、許さない瑠璃姫。かなら…ず、探し…だ…す……」
 空しく響く星歌の声。
 ――――――――そして時は千年流れた。