――――――――『ナイトエンジェルズ』。
女性二人の探偵事務所。所長の月島シノブと所員の北条メグミがメンバーである。
1年前からの開設であるのにすでに大繁盛だ。それも無理はない。
シノブはこの事務所を始める前から優秀な女探偵として前の事務所で有名になったからだ。
…だが、たまに何も仕事のない日もある。
そんな時はシノブは事務所で本を読むことにしていた。
自分の家にいるより事務所にいる癖がついてしまったのだ。
「………所長」
ハッとなったシノブが声の方を見た。
「………メグミ」
シノブの目の前にメグミがお盆にコーヒーを乗せて立っていた。
「…コーヒーを入れてくれたの。ありがと」
シノブはコーヒーを受け取り、さっそく口をつけ、そして、自分の後ろにある窓を見た。
昨日から降り出した雨がまだ降っている。
「まだ降っているのね」
「………いつになったら止むのでしょう、この雨は」
「…そうね。いつになったら止むのかしら」
二人はそのまま外を見ていた。
灰色の空。そこから降ってくる雨。まるで誰かの流す涙のような雨――――――――


…ピンポーン。
「…チャイム?」
シノブが玄関の方を見る。
「…私、行きます」
それを見たメグミはそう言い、玄関の方に向かった。
「…この雨の中来る人間ってそうとう変わってるわ」
そう言いシノブが苦笑いした瞬間………。
「いやー参った。参った!!」
という男の声が聞こえた。
「…さ、佐伯!?……うそっ!!」
シノブはあわてて玄関の方を見た。だが、時は遅し………。
「シノブ〜!!」
声の主――――佐伯トオルがにこにこしながら頭にタオルを巻いて入ってきた。
後からメグミ、バスタオルを肩に掛けた麻宮コウが続く。
「佐伯、何よいきなり!!」
「いきなりはないでしょう?せっかく遊びに来たのに」
「来たのにじゃない!人がせっかく休んでる時に………んっ?」
シノブの目にトオルの後ろに突っ立っているコウが映った。
「…彼、誰?」
「………あぁ」
トオルはちらりとコウを見て――――――――
「拾ったんだ」
「拾った?あなたねぇ、犬や猫を拾ったみたいに言わないの!!……………とにかく座って」


「…そう、妹さんが」
シノブはメグミが改めて入れ直してくれたコーヒーに口をつけた。
「…この街ならありえそうだろ?」
トオルもそう言ってコーヒーを飲む。
「……でも、それ以上は分からないのでしょう?」
「そう。だから、こいつは突っ立ってた」
「…で、うちに来てどうするつもりだったの?」
シノブはじろりとトオルをにらむ。
「……ほら、うちの事務所改装中でしょ?だから休みに!」
「自分のせいでしょ?改装中にしてしまったのは!?」
「………いいじゃない、今その話は。…とにかくこいつを休ませたかったの。これから大変だからね」
「………え?」
話を聞いていたコウが始めて口を開いた。
それを見たトオルはいたずらっ子のような笑顔を浮かべ、コウに言う。
「うちへ来い。どうせ行くとこないでしょ?……こき使ってあげるから♪」
「…え、えぇ――――――――!!」
コウは思いっきり驚いた。この時が始めて彼が表情を出した瞬間だった。
「お、そんな顔も出来るのね」
そう言いながらくすくす笑う、トオル。
「どうせそんなことだろうと思ったわ」
シノブが溜め息をついた。
「分かってるじゃん、さすがシノブ」
「…分かるも何も。……………本当にいいの、コウくん?このままだと無理矢理にでも連れて行かれるわよ!?」
コウはうなづきながら答える。
「…かまいません。ちょっと驚いたけど、俺、妹を探すまでネオコウベに帰れませんから……」
「そうそう。俺と一緒にいたほうが妹の情報が入るかもしれないからねー!」
「…まあそれはそうかもしれないけど」
苦笑いをしたシノブはふと窓の方を見た。
雨はいつの間にか止んでいた。雲の隙間から太陽がのぞいている。
「……晴れてる」
シノブの後ろにいたメグミが言った。
その声にトオルとコウも窓の方を見る。
見ながらトオルはコウに言った。
「…止まない雨はない。いつか必ず止むんだ。お前の心みたいな雨はこうして止んで太陽が顔を出してる。
……お前もさ、ずっとそんな顔してないでさっきみたいにいろんな表情出してみ。
そんなんじゃいつまでたっても妹は見つからないぜ」
「………佐伯さん」
コウは急に真面目になったトオルを見て少し驚いたが、彼の気遣いが分かったような気がした。
そして、やっと笑えた。
「これからよろしくお願いします!」

ー終わりー