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あれからどのくらい歩いたが分からないが、あきらかにかなり歩いたことに気がついた。
太陽がかなり西に傾いているからだ。


「あとどのくらいなんですか?」
あかりが先頭を行くウッドに声をかける。
ウッドは立ち止まり、振り向いて言った。
「もうすぐだよ。今目の前に森が見えるだろう? 
あの森の一番奥だ。深い森だけど、簡単に行ける。…何もなければだけど」
「え?」
あかりはウッドの少しの声の変化に気がつく。
ウッドの声から明らかにピリピリしているものを感じたからだ。
「…何か見てる?」
真守も気配に気がついたようで、真守の利き手は腰にかけた剣を握っていた。


「真守くんとあかりさんはとりあえず下がって!
僕らで対応します!!」
クレハが叫ぶ。
彼の手は魔法によって輝いていた。
「土よ、すべてを防げ!ウォール・ガード!!」
クレハによって紡がれた言葉は光の壁を形成し、真守とあかりの前に現れる。
「そこで待っていて!」
そう言った彼の手はまた輝いていた。
「土よ、すべてを飲みこめ!サンド・インガルフ!!!」
クレハの言葉に地面から砂が巻き起り、目の前の見えない何かにぶつかった。
『ギャオーーーーー!』
何とも言えない声がしたかと思うと、黒い『何か』が姿を現す。
『それ』は黒い塊。
そう……塊。
その生きものらしきものには生きものとしての形がなかった。
大きな黒い細長い丸の様な形しかなかったのである。

「魔物?」
真守は見たことにない『それ』に首をひねった。
ただ1つ分かることがある。
『それ』はヤバいと。
自分が見た『魔物』よりかなり上の力を持つと…。
「ウッドさん、クレハさん!!」
真守は叫んだ。
「まだ手を出すな!切り札は最後だ!!」
ウッドが答える。
彼は『それ』に剣で切りつけたところだった。

ガチャン!
何とも言えない音がして、剣が転がり落ちる。
「切れない!?」
ウッドはあわてて剣を拾い、手に魔法の力を込めた。
「木よ、剣(つるぎ)となれ!フォレスト・ブレーク!!」
魔法の力が大剣の形をなり、ウッドはそのまま黒い塊に突進した。
「うぉぉぉぉ!!」
いきおいよく『魔法の大剣』で切りつける、ウッド。
『ブォォォォォ!!』
塊は切りつけられ、声を上げる。
少し効いたようだったが、ダメージがあまりないようだった。
「…どうなってるんだ」
唖然となるウッド。
「たぶん『あれ』の力がかなり上なのでしょう。だから剣では効かない」
手で汗を拭いながら、クレハが答える。
「でも魔法でもあんまり効いてないみたいだぞ。
一体どうしたら…」
「そうですね。とは言え、考えてる暇もない。やるしかない!」 
再びクレハの手が光った。
「土よ、すべてを奪え!サンド・バースト!!」
クレハの目の前の土が津波のように塊に襲いかかった。
『ギャオー!』 
塊は叫び声を上げる。
塊は端が少し欠けたようだが、まだ致命傷にはなっていないようだった。
「………」
クレハは悔しそうに唇をかむ。
「…!うわあぁぁ!!」
はっとなったその時ーーーーークレハとウッドは見えない力で吹き飛ばされた!
「ウッドさん、クレハさん!!」 
守りの壁から真守が叫ぶ。
二人は意識を失ったのかピクリとも動かなかった。


「やるしかない」
真守は剣に手をかける。その時…。
「ん?」
隣にいるあかりの様子がおかしい事に気が付いた。
あかりの周りに何かが見える。
淡い光。
暖かいけど、強い何かを感じる光…。
(まるで…これって……姫、ジュンナ姫みたいな)
ジュンナ姫…この世界を祈りの力で守る『姫』。
世界と同じように人にも対は存在した。
『ガーベラ』の対が『真守』。
そして『ジュンナ姫』の対は………。


「………」
まるで何かに操られたかのように無言のまま、あかりは歩みを進める。
そして守りの壁を出て、黒い塊の前に立ちふさがった。
「…すべてに光を」
つぶやくように言ったあかりは両手を黒い塊の方に差し出す。
ピカー!!!
まばゆい光が辺りを包んだ。
「うわ!」
あまりにまぶしさに目をつむる真守。
『ギャォォオオオオオ!!!』
何ともえない声が聞こえ、しばらくすると光は消えた。


恐る恐る目を開ける真守の目の前にはーーーーーー
「! ダークさん、ネイビー、レ-ラ…」
黒い塊の前にはあかり、そして…3人の男女の騎士がいた。
青年、少年、少女………1年前に真守の目の前で姿を消したあの3人が確かにいた。
元々「守護騎士(ガーディアン)」のライト、ウッド、エフォートの3人を自分の配下にするため、
ガーベラが魔法で姿を変えた3人の騎士、それが3騎士ーーーーーーー


「どう…して?」
驚きの声を上げる少年、ネイビー。
「どうしても何も決まっていますわ」
何を言ってるいるのとばかりに突っ込む少女、レ-ラ。
「我らがいるということは…ガーベラ様に何かあったということ」
言いながら倒れているウッドとクレハを見つめる青年、ダーク。


「あ、あれ?」
ダークに横に立っていたあかりが声を上げた。
「私…」
レ-ラがあかりの手をつかむ。
「ほら、危ないから彼の横にお行きなさい!」
「え、えええ!」
レ-ラはそのまま真守の方に向けてあかりを押した。
「きゃあ!」
あかりは押されて真守の方に行き、真守に受け止められた。
あかりはそのまま真守を見る。
「何がどうなってるの?」
「後で説明する。とにかくダークさん達に任せて僕らをウッドさんとクレハさんを」
「分かった」
2人は守りの壁を出てウッドとクレハの元に向かった。


「さて…と、あれ、なんですの?」
汚いものを見るような目でレ-ラは黒い塊を見つめた。
「黒い…意思。あれはたぶん人の邪念が集まったもの」
ネイビーが答える。
「我らがいない間にとんでもない事が起こったようだ。
だが、あの方の為に我らは動かなくてはならない。いいな」
ダークはネイビーとレ-ラを見る。
一年前とは違う優しい瞳で…。
「分かっている」
「分かっておりますわ。我らは3騎士!」
レ-ラはそう言うと、剣を構え、魔法を唱えた。
「灰の涙、敵を襲え!シンダー・ティアーズ・ソード!」
レイラの剣より魔法の矢が放たれ、黒い塊を襲う。
『ギャアァアアアア!』
塊が今までとは違う大きな声で叫んだ。
「?」
レ-ラは不思議そうな顔をして、ネイビーとダークを見る。
「…おかしくありませんこと?」
「お前の言いたいことは分かる」
ネイビーが答えた。
「目の前の『あれ』はかなりの力を感じた。俺たちでも戦えるか正直分からなかった。
なのにお前の魔法がかなり効いた。これは…」
続けてダークが言う。
「今はそんなことはいい。倒すぞ」
ダークは地面を蹴った。
「たぁああああ!」
ザシュ!!!
黒い塊が叫びもなく、もだえる。
黒い何かが飛び散り、『それ』は半分ほどの大きさになった。
「ネイビー、束縛を!」
「分かった!紺の力、捕獲せよ。ネイビー・キャプチャ―!!」
素早く呪文を唱えたネイビーの指先から紺色の糸が出て、その糸が黒い塊を拘束した。
『ギャギャピ……』
塊は動こうとするが動くことが出来ない。
「とどめだ」
3騎士の剣が一斉に光る。
剣に魔法の力を込めているのだ。
そしてそのまま3つの剣は塊を塵へと変えた………。


「ふぅ。シャワーをあびたいところですわ」
レ-ラが呟く。
そこへ、真守、あかり、気がついたウッド、クレハがやってきた。
「ダークさん!」
真守がダークに近づく。
「すごかったよ、三人であっという間に!!」
ダークは首を振った。
「あれは俺達だけの力ではない」
「え?」
「あれは誰かの力」
ダークはあかりを見た。
「え?わ、私??」
あかりは驚いて声を上げる。
「俺達を呼んだのは君だな。君から知っている人間の力を感じる」
「わ、私は何も………」
「無意識の力でしょう。あかりさんはやっぱり『姫の対』だったんだ」
話を聞いていたクレハが口を開く。
「僕とウッドが倒れ、自分達だけではどうしようもない。そこでこちらだけしか使えない『対の力』が目覚めたのです。
さっき君たちが僕らのところに来た時に君は僕とウッドに触れたでしょう。
あれで僕らはぱっと目が覚めた。
声をかけられたから目覚めたわけではない。
あの時僕らは体力も魔力もほとんどなかった。
そこに君が来て触れたおかげですべて回復したんです」
「回復しただけではないな」
ウッドも口を開く。 
「ダークたちのように力が増えた気がした。
一時的なものだろうが今は必要な力だ」 
「何があった、ガーベラ様に?」
ずっと話を聞いていたネイビーが尋ねる。
「ガーベラのところに行きながら話そう。時間がない」
ウッドが答えた。
「頼む」