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「白き姫と赤き魔女SleepingBeauty


私たちが住む世界には誰も知らない秘密がある。
 私達の世界には支え合うもう一つの世界が存在するのだ。
 その世界の名は「トゥイン」。
 その世界の人間の一部はこの事を知っている…私達の世界とトゥインが支え合う「対の世界」である事。
 この二つの世界以外にもたくさんの対となった世界たちがある事を。
 「トゥイン」は剣と魔法の世界であり(魔法科学としての科学もある)、一年前滅亡の危機にあった。
 「トゥイン」は世界の中心にある「レニアム国」にいる一人の「姫」と呼ばれる女性の祈りと
彼女を守る7人の「守護騎士(ガーディアン)」によって守られていたのだが、
ある日「姫」の住む城が襲われ、世界の危機が訪れた。
 そしてとある少年が私達の世界から呼び出され、危機を救ったのだ。
 それから世界は平和だった。
 そう…平和に見えた。
 平和の中に闇が潜んでいたことに誰も気がつかなかったのだ。
 そしてまた破滅の幕が開く………。



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 ことの始まりの一時間前。
 私達の世界。
 一年前に召喚された少年・白雪真守(しらゆきまもる)は
いつものように幼馴染の少女・伊勢あかり(いせあかり)と帰宅しようとしていた。
 

「あれから一年ね」
 あかりはふと呟く。
 彼女の目の前で消えた真守が異世界で戦い、戻ってきたから一年がたっていた。
「そうだね、一年か…」
 真守も呟くように答えた。
 あの出来事は一生忘れることが出来るはずがない。
 異世界・トゥインを祈りの力で守る姫を護る守護騎士(ガーディアン)・のメンバーである少年と少女・ブレイブとアクア。
 そんな二人を温かく見守る同じ騎士メンバーで二人の騎士になる前の学校での先生でもあったグラン。
 4人で続けた約1か月の冒険は彼にとって精神的な成長を与える場でもあった。
(ちょっと男らしくなったんだよね)
 あかりはそう思う。
 小さいころから男子にしてとても気が利いて心優しい彼は
何かにつけて目に付くようで
よくいじめられてそれから守っていたのはあかりであった。
 つい最近…1年前まではあかりは何かと気を使い、守ってきたのだが
あの冒険から帰った彼は少し変わっていたのだ。
 何かというと答えられないが、その雰囲気から誰にもいじめられなくなっていた。
(目の前で消えたのはびっくりしたけど、まーくんにはいい冒険だったんだ)
 あかりはこの1年を思い出し、ほほ笑んだ。


「みんな元気かな」
 真守が空を見上げた。
「きっと元気よ」
 あかりが優しく言う。
 あかりはその世界には行ったわけではないが、
赤ちゃんの頃からの幼馴染である真守の言う事を信じていた。
 しっかりものだが、実は本好きで空想好きでもある彼女にとって真守の言葉はうらやましいものである。
「実は話を聞いてちょっと行ってみたいなって思ってたんだ」
「トゥインに?」
「うん」
「難しいんじゃないかな」
 困った顔で真守が答える。
 あかりがにっこりと微笑み、「行けたらの話よ」と答えた。
「あかりちゃん、たまに本気で言うから…」
「あら、叶えたい事は口に出した方がいいのよ。叶っちゃうんだから」
「…今度行くなら平和な世界がいいな」
 そう真守が呟いた時、二人に目の前の空間に穴が開いた。
「え、これって!?」
 あかりがそう叫んだその瞬間ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「うわー」
「きゃあ!!!」
 …二人はあっという間にその空間に吸い込まれた。



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 ぴぴぴ。
 聞き覚えがある鳥の声…そう思って真守は目を開けた。
 見たことがない森だったが、雰囲気は前冒険して見た事のある森に似ている。
「真守」
 声のする方を見ると知っている人物がいた。
 共に旅をしたアクア、ブレイブ、グランと同じ騎士の1人・木の守護騎士(ガーディアン)であるウッドだ。
「ウッドさん!」
「目を覚ましてよかった。なかなか目を覚まさないから心配したんだ」
 真守は知っている人物がいて安心したが、ふと思い出した。
「!あ、あかりちゃん!!あかりちゃんは!?一緒に来たはずなんです!」
「あかり?…彼女なら……」
 ウッドの視線に先にはあかりがいた。
 木の切り株に腰かけて、何か飲んでいる。
 その横には見たことにない銀色の長髪でメガネをかけたウッドと年齢があまり変わりないだろう男性の騎士がいた。
 あかりが視線に気づき、声をかけてくる。
「まーくん、気が付いてよかった。ごめんね、なんかここ来たら急に喉が乾いちゃって
クレハさんから水頂いてたの」
「クレハさん?」
 真守の声にあかりの傍にいた騎士が声をかけてきた。
「初めまして、真守くん。僕はクレハ。グラン先生のあとを継いだ土の守護騎士(ガーディアン)だよ」
「クレハは今年の春に土の守護騎士(ガーディアン)になったばかりなんだ」
 ウッドがクレハの言葉に捕捉する。
「じゃあ、グラン先生は?」
「グラン先生は元々昨年引退するつもりだったらしい。
その準備としてブレイブたちの代で魔法学校の先生もやめていたんだ。
 だが、あの出来事があったから延期していたそうだ。
 それで半年前今回の春で変わることを姫に相談してね、クレハに変わったという事なんだよ」
「今グラン先生は?」
 今度はクレハが答える。
「先生は元々先生の祖国に戻るつもりだったんだが……
僕と変わった時期にリーダーのライトが病気になってしまって彼に付き添って他国に行っているんだ」
「ライトさんが病気!?」
 驚いた真守が声を上げる。
「大丈夫だよ。この国では難しいけど、僕の国に行けば大丈夫」
「僕の国?」
「あ、ごめん。僕の祖国さ。
 僕の祖国はこの世界の医療大国・ホスピジューム。他の国でに治らない病気もほとんど治る。
 だけど…」
「だけど?」
「また何か起こったってこと」
 あかりが答える。
「あかりちゃん、聞いたの?」
「はっきりとは聞いてないけど…でもまーくんが呼ばれたってことは、わかるでしょ?」
「…確かに」
 真守のその言葉に申し訳なさそうな顔をしてウッドが口を開いた。
「そう。また起こった。それも俺らの時間で1日前だ。
 あれからガーベラは真紅の森でひっそりと暮らしていてね。
 1か月に一回守護騎士(ガーディアン)の誰かが様子を見に行くような感じだった。
 これは周りに対する対策でもある。
姫は事実を知った者たちに必死で説得して、納得させるために決めだんだ。
 もちろん姫も心配しているから…というのもあるがね。
 この1年何もなく、俺たちはガーベラの様子を見るだけですんでいた。
 ところが昨日…」



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 「トゥイン」時間で前日。
 世界を祈りの力を守る「姫」の城から
2人の守護騎士(ガーディアン)・ウッドとクレハがガーベラの元へと向かった。
 いつものようにガーベラの無事を確認し、少し会話して帰るつもりだったが、
その日は違った。
 彼女の住居に近づいた時、クレハの顔色が変わったのだ。
 

「どうした?」 
 ウッドはクレハが「何か」を感じているに気がついた。
「…何……とは言えないのですが、邪悪な何かを感じます。ウッド、気をつけて進みましょう」
「あぁ」
 ウッドの手に汗がにじむ。
 すぐに手を振り、汗を払うと手を剣のつかに掛けた。


 あと少しという時、ウッドも感じ取った。
 …何とも言えない「黒い意思」を。
「………」
 2人は無言のまま進み、ウッドがガーベラの住居のドアノブに手をかける。
「クレハ…」
 ウッドは振り向き、クレハに確認した。
「…」
 クレハは無言でうなづき、手に魔法の力を込める。
「行くぞ…」
 小さな声でウッドは言うと、勢いよドアを開けた。


「!」
 2人は目を疑った。
 二人の目の前には確かにガーベラがいた。
 だが…それは二人の知るガーベラではなかったのだ。
 それは黒いオーラに包まれ、顔を歪めるガーベラ。
「ウッ…ド、クレハ……逃げ……………て」
 呟くように声を出すガーベラはそれだけでもつらそうだった。
「ガーベラ、何があったんだ?」
 ウッドが叫ぶ。
「さっき急にドアが開いて、これ…が、わ………たしに…。
 早く…にげ……て。何とか抵抗しているけど…こ、これ以上は……」
「ガーベラでも防げない。強い意志…」
 クレハが小さな声で呟く。そして何かを決意すると叫んだ。
「ガーベラ!」
「!?」
 ガーベラがクレハを見る。
「あなたの力でそれをあなたの中に抑え込むことは出来ますか?」
「残っている力をすべて…使えば…1日ほどなら」
「それだけあれば十分です。後は何とかします。だから…お願いします」
「……」
 小さくうなづくガーベラ。
「…赤き果実の力、すべてを我に。レッド・シールド!!!」
 ガーベラは力いっぱい叫んだ。
 黒いオーラは抵抗すべく揺れるがガーベラは許さない。
「う…あ、あぁぁぁぁぁ!!!」
 ガーベラの周りに風が巻き起こり、黒いオーラはすべてガーベラの中へと入っていった。
「やっ…た」
 小さくほほ笑むガーベラ。ゆっくりとまぶたを閉じる。そのまま彼女は石になった。
「ガーベラ」
 あまりの急展開に驚いて呆然となったウッドの手をクレハがつかむ。
「ウッド、ここから出ますよ。後は僕がこの建物を封印します!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「そんなことが…」
 ウッドとクレハの話に真守は言葉を失った。
 ゆっくりとクレハが言う。
「正直ガーベラを救い、この世界も救えるのか僕も分かりません。
 でも守護騎士(ガーディアン)に就任してすぐ君の話を聞いていて…かけたのです。
 君の心の強さなら彼女を救えるのではないのかと。
 そう思ってエフォートにお願いして君を呼んだのですが……なぜか君の幼馴染のあかりさんまで」
 困惑した顔でクレハはあかりを見た。
 あかりはにっこりとほほ笑む。
「いいのよ。一回来たかったし」
「しかし危険なんですよ!?」
「まーくんが守ってくれるからいいの」
「え?」
 クレハが真守を見る。
「す、すみません!あかりちゃん、昔からこんな人で!!
とにかくあかりちゃんを守りつつ、ガーベラさんを助けます」
「ありがとう。僕らも出来るだけやることはやりますよ。とはいえ…」
 クレハがウッドを見た。
「動けるのは俺とクレハだけだけどね。
 エフォートとブレイブ、アクアは姫を守り、シャインは何かあったらと国中を回っている。
 先生もライトも他国だ。……それでもやらなければならない」
「はい!」
 真守が答える。
 ウッドがあかりの頭をぽんと叩き、
「俺らも彼女を守るから。最後はガーベラに集中してくれ。たぶん対の君にしか出来ないはずだ」
「はい!」