ホームページ素材は「幻想素材サイト First Moon」さまからお借りしました
キャラクター紹介
用語
ドラマ
リンク
★トップページはこちら

小説登場キャラクター紹介
小説最初のページ
小説2
小説3
小説5


  

ガーベラ宅の外。
クレハの結界に守られた真守とあかりはしばらくして家の中から音がしないことに気が付いた。

「まーくん!?」
「…うん、おかしいよ」
「何かあったんだわ!行こう、まーくん!!」
「僕は行くけどあかりちゃんはここにいて。守れないかもしれない」
「大丈夫よ。私には…『対の力』…だっけ?それがあるじゃない!」
「でもそれは無意識の力で使いこなせてないでしょ!危ないよ」
「大丈夫。私、信じてるから!」
あかりはそう言うと結界と飛び出した。
「あかりちゃん!」
あわてて真守はあかりを追いかける。
二人はガーベラの家の中に入った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「!」
中に入った2人は絶句してしまう。
3騎士もウッドもクレハも……黒い炎のオーラに包まれて倒れ、意識を失っていた。
「どうなってるの?」
あかりがつぶやくように言う。
『ふふ、まだ雑魚がおったか』
部屋の奥から女性の声が聞こえた。
(ガーベラ…さん?)
ガーベラの家のはずなのに真守は聞いたことのない声。
あきらかにその声はガーベラではなかった。 
「ガーベラさん?」
あかりが小さな声で聞いてくる。
「違う。こんな声じゃない。でも…」
足音が聞こえ、その女性が姿を現す。
長い黒髪の大人の女性。
「!」
真守は目をじっと凝らした。
確かに目の前にいる黒髪の女性は見覚えがなかった。でも…面影はある、ガーベラの。
「…その体はガーベラさん?」
『ふふ、…さずが1年前この世界を救った少年だな。
我はスリーピングビューティー。
この世界のすべての人間の心の闇の結晶!』
スリーピングビューティーの体から黒い炎のオーラが巻き起こる。

「何、これ?」 
あかりがオーラを見て声を上げる。
「あの黒い中に…何か見える。……誰かが誰かと争ってる!あっちは誰かが泣いてる!!
これって……」
『ほぉ、そちらの少女には闇の中が見えるのか。面白いものもいたものだ。
これはすべてこの世界の闇の歴史のようなもの。
争い、憎み、悲しみ…これは「負」の感情の記録。
これが集まって我となった。
そしてガーベラを手に入れ、やっとこの世に現れる事が出来た!』

ポトリ。
あかりの目から一筋の涙が流れた。

『?』
スリーピングビューティーがあかりを見る。
あかりの涙に驚き、黒い炎のオーラは消えていた。
「悲しかったのね」
『な、何を?』
「争い、憎しみ……分かり合えない。すごく悲しいよね。
人間だからどうしても分かり合えないこともある。それは仕方のないことだよ。
でも…ずっと否定されていたら悲しくなるよね。
スリーピングビューティーさんはそんな人間の悲しさなんだよ。
誰かが手を差し伸べてくれたら……こんなことしなかったよね」
『お前に何が分かる…』
「私には分からないよ。
だってスリーピングビューティーさんはスリーピングビューティーさん。
心はその人にしか分からない。
でも…ずっと否定されたら悲しい。それぐらいは私にだってわかる。
私は…受け入れるよ、あなたを。
きっと寂しかったんだよね。ずっと一人で彷徨ってたんだもの」
あかりはスリーピングビューティーに右手を差し出す。
その右手は淡く光っていた。
とても暖かな光……。
『………』
スリーピングビューティーは手を出そうとしたがすぐに手を戻した。
『嘘をつくな!』
「嘘なんて…」
『人は嘘をつく生き物だ。我はそんな人間から生まれたのだぞ!
信じられるか!!
嘘をつき、迷わし、蹴落とす…それが人間だぁ!!!』
スリーピングビューティーの言葉と共にまた黒い炎のオーラが巻き起こる。
風も吹き荒れ、部屋中のものが飛び出した。

「きゃ!」
「うわっ!!」
二人は頭を押さえて部屋の隅に逃げる。
「…まーくん、どうしよう」
「分からない……でも何とかしなきゃ。
きっと方法はある」
真守はそう言うと前に出た。
あかりも出ようととするが、片手でせいする。
「………」
あかりは無言で頷いた。

風の中、真守は一歩出て叫ぶ。
「確かに人は嘘をつくよ。
でも嘘は悪い嘘だけじゃない。良い嘘だってある。
悪い病気にかかった人に気落ちして欲しくなくて軽い病気の名前を言ったり、
落ち込んでるけど心配させたくなくて明るく振る舞ったり……。
人の心は複雑なんだ。
嘘は弱い心を隠したりするものなのかもしれない。
……そんな嘘でだまされたとしてもそれでも人は信じることで生きている!」
『関係ないわ!
我は人間の一番汚い部分。
受け入れるなど出来るはずもない!!』
「いいえ。私は受け入れるよ!」
あかりが叫ぶ。
「受け入れるなんて…偉そうだね。
スリーピングビューティーさんと仲良くなりたい。……それじゃあダメかな?」
『…な、なぜそこまで?』
驚いた顔のスリーピングビューティー。
風はいつの間にかやんでいた。
「なぜ…自分でも分からないな。ただ仲良くなりたいと思ったの」
あかりはまたあの暖かな光で包まれていた。
(これは……この世界の姫と同じ光?この娘は…)
スリーピングビューティーはガーベラの中の記憶を辿る。
あかりと似たような笑顔で微笑むこの世界を祈りの力で守る姫。
彼女の周りにも同じように暖かな光で満ちていた。
彼女らに人間の闇を感じない………。
数少ない信じて良い人間なのかもしれない。
スリーピングビューティーの脳裏にそう浮かびかけた時---------------


《……シンジル?ナゼ?ワレラハキラワレルモノ…………》
スリーピングビューティーの心の中に何者かの声が聞こえた。
(こ、これは……)
たくさんの声。
スリーピングビューティーを作った人々の闇の声だった………。
(だ、だが……我は………)
《シンジルモムダ!スベテヲム二!!》
『あ、あぁ!!!』
スリーピングビューティーは頭を抱えて座り込む。
「スリーピングビューティーさん?」
あかりが心配そうに声をかけた。
側に行きそうになったが、真守が止め、無言で首をふった。
「………」
あかりは立ち止まり、心配そうにスリーピングビューティーを見つめる。
『あぁ!!』
頭を抱えたまま、スリーピングビューティーは叫んだ。
心の中で闇と戦っていたのだ。


(信じたい…やっと暗闇から抜け出せるかもしれぬ。
この娘なら……きっと我を……)
《テヲトレバドウナルカワカルダロウ?
ワレラハ……ヤミ。ヒカリトハアイショウガワルイ。ソノテヲトレバ…キエル》
(分かっているさ。だが苦しいのだ。
誰かを恨み、妬み、怒り続けても心に残るのは『無』のみ。
満たされない……永遠に。
この心の乾きは永遠に満たされないのだ。
どれだけの時間を孤独でいたと思う?
ならば…その暖かな手を取り、満たされたい。
それで……終わりが来るのだとしても)
《ユルスモノカ!ヤットカンペキナカラダヲテニイレタノニ!!》


ブォォォォ!!
またスリーピングビューティーの周りに黒い炎のオーラが巻き起こった。
その炎は天井高く舞い上がり、天井が燃え崩れそうなほど熱く、 
スリーピングビューティーの心の戦いがはっきりと分かるほどだった。

「…………」
心配そうに見つめるあかりはふとスリーピングビューティーの変化に気がつく。 
スリーピングビューティーの周りにある黒い炎のオーラがより濃くなっていたことに……。
「まーくん、おかしい!スリーピングビューティーさんの周りのオーラの色」
「え?」
「濃くなってる」
「!」
真守ははっとなり、剣を握る。
「あかりちゃんは僕の後ろに!」 
真守のあまりに強い声にあかりは慌てて真守の後ろに隠れた。
その時…………


黒い炎のオーラはやみ、スリーピングビューティーは真守とあかりを見た。
その目には先ほどまでの感情はなかった。
目の生気は消え、人形のような瞳で見つめている。
『オマエラハキエヨ。コノヨヲムニカエルタメイラヌソンザイ』
先ほどまでのスリーピングビューティーの声に違う声も混じった声で彼女は言った。
「ス、スリーピングビューティーさん?」
『サキホドマデノ「スリーピングビューティー」ハイナイ。アレハワレトガーベラガマジワッタトキニウマレタソンザイ。
ガーベラノチカラヲカンゼンニトリコンダイマイラヌ。
ワレガノゾムノハ「ム」ノミ!』
スリーピングビューティーが右手を突き出す。
黒い炎が真守とあかりを襲った。
「くっ!」 
真守は剣を盾にしてあかりを守ろうする。
だが…黒い炎は二人を包んだ。
「きゃあ!」
「うわぁ!!」
本物の炎のような熱さに声を上げる二人。
しかしあかりは手を伸ばした……スリーピングビューティーに向かって………………。
『ナニヲスルキダ?』
あかりは苦しそうな顔をしながらさらに手を伸ばし、スリーピングビューティーの手を掴んだ。
『!』


繋がれた2つの手は輝きだす。
『グァァァァァ!!!』
スリーピングビューティーは悲鳴を上げた。
悲鳴とともに真守とあかりを包んでいた黒い炎は消える。
後に残ったのはまばゆい光に包まれるあかりとスリーピングビューティーだった。
「………」 
驚き、あかりを見る真守。
あかりの目は最初の時と違い、しっかりとスリーピングビューティーを見つめていた。
(力を使いこなしてる!?)
「あなたも人を憎んでいるのね。さっきのスリーピングビューティーさんと同じように。
仕方ないよね。あなたはそのよう心だけで生まれてしまったんだもの。純粋すぎる心。
そんなあなたならまだ…間に合うよ」
あかりは両手でスリーピングビューティーの手を包んだ。
『!』
光が輝きを増していくーーーーーーーーーー


その光は家中に広がり、倒れている3騎士とウッド、クレハも包んだ。
暖かな光は5人を癒していく。
ゆっくりと目を開けた5人はお互いを見回した。
「……癒しの光。こんな規模の魔法は見たことがない。
これが……彼女の来た意味」
クレハはつぶやく。
目の前の奇跡のようなその光景に目を細めながら、じっとあかりを見つめた。


《………》
まばゆい光の中、スリーピングビューティーは気が付く。
最初は苦痛だったこの光に今は何も感じないことに。
皮肉なことに今はこの光が心地よいのだ。
《ナ、ナゼダ?》 
(…欲しかった。お前もそうだったからだろう?)
気が付くと目の前にさっき消えたはずの「スリーピングビューティー」がいた。
《オマエハキエタハズデハ!?》
(そう。消えた。…でもそれは一時的なもの。
我はお前。お前は我。1つのモノが消えるはずはない。
我は闇をさまようお前の悲しみの部分をガーベラを取り込んだ事で意思をもった存在。
お前の怒りの力で一時的に封じられたにすぎない)
《……》
(心地よいのだろう?
だってこの光は我らがずっと欲しかった…光。信じてくれる人の優しい愛の光だから。
…さぁ、行こう、。この光が導いてくれる、永遠の旅から救ってくれるから)
「悲しみ」のスリーピングビューティーが手を取る。
《…イコウ》 
スリーピングビューティーはつぶやくように言った。